バーレスクはいいぞと語るうちに気付くと「ああいうのとは違うんです」とか言い出して失礼になる【中編】
数えたら前回「おっぱいファンタジー」って20回言ってました。
「あれとは違う」と言うこと自体が失礼になりうる、というお話をするはずだったのですが、映画の字幕調べてたら中編できてました。後編にはたどり着くかな。
(2017.8.5 読みにくかったので清書しました)
2010年公開のクリスティーナ・アギレラ主演の『バーレスク』という映画があります。ダブルヒロイン的にシェールも出てるし監督はスティーヴ・アンティンという方ですが、経験上「バーレスクってアギレラの出てたあれでしょ?」って言われる率がとても高いので、とりあえずこの映画に出てきたバーレスクを便宜上「アギレラバーレスク」と呼んでおくことにします。炎上しそうなので先に言っておくと、このアギレラバーレスクは歌も踊りも世界観もめちゃめちゃかっこよかったし、気楽に見られるアメリカンエンターテイメントとしてもとても楽しかったです。本当です。
このアギレラバーレスクにはバーレスクはストリップではない、と明言するシーンがあります。
以下映画内のセリフと一部映像は、㈱ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント発行のDVD『バーレスク』から引用を越えない範囲で紹介しています。開始7分頃、アギレラ演じる主人公アリが「Burlesque Lounge」という看板のお店に入ろうとして、入り口でアラン・カミング演じるアレクシスに入場料を請求されるところ。日本語字幕ではこんな感じ。
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アレクシス 「(手を差し出しながら)20ドル」
アリ 「ストリップクラブ?」
アレクシス 「ストリップ? / 口には気をつけて / うちはストリップなんかしないの」
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へえなるほど、バーレスクはストリップではないんだな。と思います。アレクシスの顔もめっちゃ怒ってるっぽいし。ついでに吹き替えでは何と言ってるかというと、
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アレクシス 「20ドル」
アリ 「ここってストリップクラブなの?」
アレクシス 「ストリップクラブ?馬鹿なこと言うと口石鹸で洗っちゃうから /
極上の女の子はいても、ストリッパーはいないのよ」
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きゃー、口石鹸で洗っちゃうとかオシャレーー!!大人の会話って感じする~~!字幕だと短縮されちゃうし、たまには吹き替えで見ないとねー!大人の会話聞けちゃう~!そうだよね、ストリッパーなんかじゃない極上の女の子がいるところだもんねー!!!
…言ってていやになってきました。バーレスクというのはストリップ、もうちょっと言うとストリプティーズ(脱ぐ+焦らす)を含むショーのことです。言葉の定義を全裸になることとしたらそりゃ違いますけど、ストリップは服を脱ぐ行為そのものを指すので別に変じゃないです。乳首は隠すけどブラは取るんです。 少なくとも2009年以前はその認識であったようです。ようです、というのは、わたしが初めてバーレスクらしきものに触れたのが2013年頃なので当時のことをあまり知りません。だから今ウィキペディア読みながら書いています。レポートなら怒られるとこですが、個人のブログだしこんなものです。英語版はヴィクトリアンとアメリカンの項もあるよ…英文辛い。
さて、でもわかった、アギレラバーレスクではバーレスクはストリップティーズではないものと定義するんだね。映画はファンタジーだからね、まあいい。じゃあ最後にもとの英語で何て言ってるか確認して終わろう。
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Alexis 「twenty bucks」
Ali 「What is this place, a strip club?」
Alexis 「"Strip club"? / Honey, I should wash your mouth out with Jägermeister. /
The only Pole you'll find in there is Natasha, the shot girl.」
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ナターシャは人名だよね。イエガーマイスターは、薬みたいなキツい匂いのお酒のよう。Poleはポーランド人、the shot girlはショットドリンクを売り歩く女性店員と人から教わりました。というわけで、おおよその意訳はたぶんこんな感じ。
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アレクシス 「20ドル」
アリ 「ここは何の場所?ストリップ・クラブ?」
アレクシス 「ストリップ・クラブ? /お嬢ちゃん、私はあなたの口を
イエガーマイスターで洗っちゃいたいわ。/
ああ、ポーランド人なら1人いるわね、あそこのナターシャ。
ショットガールだけどね。」
(根底にポーランド系移民への偏見がアメリカ社会にある、というのが背景にあるセリフ。)
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あれ?ストリップであるともないともはっきり言ってないぞ!?
実はアギレラバーレスクではストリプティーズするショーが、1つだけですけど、あります。「Guy What Takes His Time」という曲名のなんですが、ブラだけじゃなくパンツも取って、フェザーファンふわふわさせて隠してみたいな、いかにもクラシックバーレスク!なすごく素敵な演目です。ほかのとこでは全然脱がないし集団で歌って踊るショーだけですけど、とにかくこのブラもパンツもストリップ&ティーズする演目が入ってるのですから、バーレスクがストリップではないと言い切ってたらやっぱり変なのです。バーレスクがストリップではないと明言してたのは日本語字幕と吹き替えだけだった!発見!!
だから、すごくすごく好意的に取れば「 I should wash your mouth~」のくだりはストリップという名称を軽々しく使ったアリの軽率な態度を窘めているだけ、とも取れなくもない…のかな。いやでもストリプティーズ演目はあるわけだしストリップすることじゃなくてストリップ・クラブがアレだって言ってるのかな。うーん。
正味な話、日本でもアメリカでも「ストリップ」という単語を避け、ストリップ/ストリップティーズではない・ストリッパーはいないと明言しないことには映画を広く公開することができなかったんだろうと思います。そのぐらい、ストリップに対する拒絶反応は強いですもんね。日本で生まれた(と言って差し支えないと思う)バーレスクダンス教室も、よく「ストリップとは違う」「脱がない」というワードを付けて広報します。そうしないと生徒さんも集まらないしそもそも教室自体開けないんだと思います。そうやってダンスの先生方も翻訳者も、そしてもとの映画を作った人たちも、世の中に「あんな人たちとは違うんです」と言い続けないといけないくらいストリップがネガティブなことだし、もっと言えばそのネガティブさを引き受ける気もないのでしょう。
わたしが大好きなダンサーさんはあの人もこの人もみんなその「なんか」で括られる何かです。決して極上の女の子にはなりえない何か。なぜなら脱ぐから。わたしに1週間、1ヶ月、1年と、あともうちょっだけ生きようと思わせてくれているバーレスクダンサーたちはみんなその「なんか」のほう。あと付け加えるようになってしまうけど、何人かのストリップのお姉さんたちも。でもあの歌も踊りも世界観もめちゃめちゃかっこいいお金をかけた映画が「ストリップなんか」って言えば、それはどうしたってやっぱりそうなるし、そして彼らは・彼女らは、いえ、わたしたちは、これからもそのように言われるものであり続けるんだと思います。
でも、「なんか」と言ったそのうち何人が実際ストリップ観に行ったことがあるんだろう?
次回、ストリップ劇場通いながら考えた「ストリップとバーレスクが違うというのはバーレスクはストリップなんかじゃないという意味じゃない」、および「自分が後ろ指指されるのがいやって話じゃねーよ、誰かを指差すの自体がださいんだっつってんだろ」の2本をお伝えできたらいいなと思っています。
こんな顔で「ストリップ?」って言われたらごめんなさいってなる
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【後編】書きました↓
【前編】はこちら ↓